診療についてMedical Treatment

喘息∙長引く咳Asthma & Cough

喘息・長引く咳とは?

長引く咳の原因として最も考えておかなくてはならない病気は、なんと言っても「気管支喘息」であり、「気管支喘息」以外の原因としては、喘息の前段階とも言える「咳喘息」、アレルギー性の咳である「アトピー咳」、副鼻腔炎・鼻炎との関連がある「副鼻腔気管支症候群」が代表的です。

気管支喘息は慢性・進行性の病気である

「気管支喘息」という言葉を聞くと、夜中にゼーゼーいって横になっていられないくらい呼吸が苦しくなる発作を連想されると思います。そして、多くの方が、それそのものが「喘息」であると考えていらっしゃると思います。さらに、こうしたいわゆる「喘息」が出ないときは、「喘息」は治っていると考えていらっしゃると思います。

しかしながら、こうした“発作”は、水面上に見える喘息という氷山の一角であり、実際は、水面下にもっと大きな喘息の本体が隠れているのです。水面上には何も見えなくても、すなわち、症状はなくても、水面下には喘息氷山の本体があるわけです。

img1喘息氷山のイメージ

この喘息氷山の本体は、遺伝的要因、環境的要因などが複雑に関連して形成されたもので、残念ながら現在の医学では、体から消し去ることはできません。

したがって、この本体があるかぎり、喘息病態は進行していくのです。症状はなくても進行していくのです。症状がないから、調子がよいから、といって治療を中断すると、喘息氷山の本体が目に見えないうちに大きくなり、後悔することになる場合が多いのです。ちょうど、糖尿病や高血圧が同様な経過をとるので比較して考えてみて下さい。ただ、喘息の場合は、症状が、呼吸困難発作という激烈なものであるため、症状がないときとのギャップが大きく、“治った”と思ってしまうわけです。

すなわち、「気管支喘息」は、長期的観点からの継続的治療が必要である慢性・進行性の病気なのです。

喘息氷山の本体は、気道炎症・気道過敏性・気道閉塞である

喘息とは、気管・気管支の刺激に対する敏感さが、アレルギー、ウイルス感染、精神的ストレスなど、種々の原因によって亢進する病気です。健康な人では反応しない程度の刺激にも敏感に反応して、呼吸困難発作を起こしてしまうのです。

この敏感さを“気道過敏性”と呼びます。こうした発作時をはじめとして、気道をとり巻く気道平滑筋の収縮・緊張、気道の浮腫(むくみ)、気道への分泌物(痰)の貯留などにより、気道は緊張状態におかれ、空気の通り道が細まっています。この状況を“気道閉塞”と呼びます。

そして、気道過敏性が高まり、気道閉塞をきたす最大の要因が、リンパ球、肥満細胞、好酸球など多くの細胞が関与するアレルギー性“気道炎症”という病態なのです。この“気道炎症”は、重症の患者さんのみならず軽症の患者さんにも存在することが証明されており、このことが、症状がないから、調子がよいから、といって治療を中断すると喘息氷山の本体が知らぬ間に大きくなってしまうことにつながるわけです。

これらの病態が進行していき喘息氷山の本体が大きくなり、もはや溶かしにくくなることを“リモデリング”をきたすといいます。“リモデリング”をきたすと喘息は重症となっていくわけです。まさに、喘息は慢性・進行性の病気なのです。

気管支喘息の治療は?

以上のことから、喘息治療のターゲットは、喘息氷山の水面上の症状をとることはもちろんですが、喘息氷山の水面下の本体に対するものが重要となるわけです。喘息は、慢性・進行性の病気であることを考えれば、長期的治療を要するものであることをご理解いただけると思います。

それでは、喘息治療に用いられる薬剤にはどういうものがあるのか、どういう目的で使用するのか、についてお話したいと思います。喘息は長期的治療が必要であるため、喘息治療薬も、喘息の管理・治療をするうえで、長期的・継続的に使用されるものと、短期的・一時的に使用されるものとに分類されるという観点から述べたいと思います。

長期管理薬(コントローラー)長期管理のために継続的に使用する薬剤

抗炎症薬 ステロイド薬(吸入・経口・注射)(免疫抑制薬)
メディエーター・サイトカイン阻害薬 いわゆる抗アレルギー薬 ロイコトリエン拮抗薬、DSCGなど
気管支拡張薬 長時間作用型β2刺激薬(吸入・経口・貼付) 長時間作用型吸入β2刺激薬 経口β2刺激薬 貼付β2刺激薬 徐放性テオフィリン薬
その他 抗IgE抗体療法・漢方薬・減感作療法 非特異的療法

発作治療薬(リリーバー)喘息発作のために一時的・短期的に使用する薬剤

短時間作用型吸入β2刺激薬/エピネフリン皮下注射 アミノフィリン・短時間作用型テオフィリン薬/吸入抗コリン薬/ステロイド薬(経口・注射)

コントローラーとリリーバー

喘息治療薬は、喘息長期管理のために長期的・継続的に使用する薬剤と喘息発作治療のために短期的・一時的に使用する薬剤に、その使用目的から分類して考えておく必要があります。前者を長期管理薬(コントローラー)、後者を発作治療薬(リリーバー)と称します。

慢性・進行性の病気である喘息の治療は長期的管理が必要で、糖尿病や高血圧と同様、自覚症状がなくても継続的・計画的な管理・治療をしていき、喘息病態を悪化させないことが重要なのです。この目的のために使用する薬剤が長期管理薬(コントローラー)なのです。もちろん、きちんと治療していても、胸苦しさ・喘鳴・発作という症状は、風邪などを引き金にして起こってきます。その時に使用する薬剤が発作治療薬(リリーバー)なのです。

きちんと長期管理をしていれば、喘息症状は起こりにくくなるし、起こったとしても症状の程度は軽くてすみ、リリーバーの使用量・使用種類も少なくてすむわけです。すなわち、リリーバーを使用する必要のないコントローラーの使用が理想なのです。

コントローラーの実際

コントローラーの第一はアレルギー性気道炎症の制御と効果/副作用比からみて吸入ステロイド薬です。この吸入ステロイド薬と併用して相加的・相乗的に治療効果を高める薬剤として、長時間作用型β2刺激薬(吸入・貼付・経口)、ロイコトリエン拮抗薬、あるいは、徐放性テオフィリン薬が、現時点でのコントローラーとしてあげられると思います。

もちろん患者さん毎でより理想的な組み合わせがあるので、その組み合わせを確立することが重要です。また、患者さんによっては、ここにあげていない他の薬剤が非常に有効な場合もあります。

リリーバーの実際

患者さんにとって最も身近なリリーバーは短時間作用型吸入β2刺激薬、すなわちハンドネブライザー形式のシュッとやるあの吸入薬です。この使用頻度が増えれば喘息の悪化と考えられ、コントローラーの増強、場合によっては短期的なステロイド薬の使用(経口・点滴)やネオフィリンの点滴など他のリリーバーの使用が必要になります。しかし、原則はリリーバーを使用しなくてすむ、使用したとしても最小限ですむ長期管理をしておくことなのです。

理想的な長期管理を達成するためには、患者さん毎に適した治療計画を組み立てていくことが重要です。そしてそれを可能にすることが喘息専門医の使命なのです。

気管支喘息以外の長引く咳には?

「気管支喘息」以外で“長引く咳”の原因としての三大疾患は、「咳喘息」、「アトピー咳」そして「副鼻腔気管支症候群」があげられます。どれも、あまり聞いたことのない名前と思います。

「咳喘息」は、その名前のとおり喘息素因を認める咳で、喘息の前段階と考えられる病態です。「アトピー咳」は、アレルギー素因に基づく咳です。

また、「副鼻腔気管支症候群」は、副鼻腔炎に基づく気管支病態に基づく咳です。

これらは、“咳”の専門医の間ではいずれも非常に有名な疾患であり、こういった病態を念頭において“咳”を考えることが専門医の専門医たる所以なのです。